
「孫の結婚や子育てに、まとまったお金を今のうちに渡しておきたい」——そんな想いに使われてきた非課税の仕組みが、終わる方向で議論されています。祖父母や両親から18歳以上50歳未満の子・孫へ、結婚・子育て資金を一括で渡すと、1人1,000万円まで贈与税がかからない制度です。金融庁は令和9年度税制改正の要望で、2027年3月31日の期限到来をもってこの措置を廃止し、それまでに拠出した分は引き続き非課税とすることを求めました。まだ要望の段階で、決まったわけではありません。何が書かれ、どこが決まっていないのかを、金融庁と国税庁の資料で中立に整理します。
金融庁の要望に書かれていること
金融庁総合政策課の「令和9年度税制改正見直し事項(廃止・縮減)」は、対象の措置を「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の廃止」としています。根拠条文は租税特別措置法第70条の2の3です。要望の内容は2つに分かれています。
| 項目 | 要望書の記載 |
|---|---|
| 廃止の時期 | 令和9年(2027年)3月31日の適用期限の到来をもって廃止 |
| 拠出済みの分 | 同日までに拠出された金銭等は、引き続き非課税措置を適用 |
| 税目 | 贈与税 |
| 平年度の増収見込額 | 記載なし(-) |
ここで大事なのは「要望」という段階です。各省庁の要望は、例年12月にまとまる与党の税制改正大綱で採否が決まり、その後の法改正を経て確定します。要望書に書かれたことが、そのまま実現するとは限りません。

いまの制度はどんな仕組みなのか
国税庁のタックスアンサーNo.4511(令和8年4月1日現在法令等)と金融庁の要望書から、現行制度の要点を並べます。2015年4月1日から2027年3月31日までの間に、子・孫などが金融機関と結婚・子育て資金管理契約を結び、そこへ祖父母や両親がお金を拠出する形で使われてきました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 贈与する人 | 祖父母や両親などの直系尊属 |
| 受け取る人 | 契約を結ぶ日に18歳以上50歳未満の子・孫など |
| 非課税の上限 | 受け取る人1人につき1,000万円(結婚関係の支払いは300万円まで) |
| 所得の条件 | 受け取る人の前年の合計所得金額が1,000万円を超えると使えない |
| 適用期間 | 2015年4月1日から2027年3月31日まで |
| 途中で起きうる課税 | 契約期間中に贈与した人が亡くなった場合や、契約が終了した場合には、相続税や贈与税がかかることがある |
一括で渡せる一方で、お金は金融機関の専用の口座に入り、結婚や出産、育児の支払いに使うたびに領収書などで使い道を示して引き出す形になります。渡した時点ですべてが自由に使えるお金になるわけではない点が、普通の贈与との大きな違いです。細かな手続きは、国税庁のページが案内している内閣府・国税庁のパンフレットやこども家庭庁のサイトで確かめる必要があります。
なぜ廃止が求められたのか

要望書の2ページ目は、金融庁が自らこの措置を点検した結果をまとめています。目的は「結婚や出産・子育てに係る経済的負担の解消に貢献すること」で、短期・中期・長期の3つの目標を置いていました。数字を写します。
| 項目 | 実績 | 目標 |
|---|---|---|
| 利用件数 | 2023年 217件/2024年 253件/2025年 219件 | ― |
| 「結婚・子育て支援信託」の認知率(短期) | 2022年調査 19.4%/2024年調査 23.2%/2026年調査 22.9% | 2026年調査で30.0% |
| 負担が軽くなったと答えた利用者の割合(中期) | 未達成 | 2026年調査で90.0% |
| 理想の子ども数を持たない理由に「子育てや教育にお金がかかりすぎる」を挙げる夫婦の割合(長期) | 未達成 | 2027年調査で45.0% |
認知率は一般社団法人信託協会のインターネット調査(2026年調査の回答者2,066人)によるものです。要望書は、目標がいずれも達成されておらず、利用件数も年200件台で低迷していることから、政策効果は限定的と書いています。2023年度の与党税制改正大綱ですでに「制度の廃止も含め、改めて検討する」とされ、その後も利用が増えなかったという経緯も記されています。
年に200件台という数字は、1,000万円まで非課税という枠の大きさに比べると、かなり小さい数字です。認知率が2割台にとどまっていた点は、要望書自身が要因の一部として挙げたものです。
すでに拠出した分はどうなるのか
要望書は、2027年3月31日までに拠出された金銭等については、引き続き非課税措置を適用できることとしたい、と書いています。要望どおりに決まれば、期限までに契約を結んで拠出した分は、その後も結婚・子育ての支払いに使える形が続くことになります。
ただし、これも要望の内容です。どの時点までの拠出が対象になるのか、契約の終了や贈与した人の死亡のときの扱いがどうなるのかは、12月の大綱とその後の法令で確かめる必要があります。期限の前に慌てて拠出を決める前に、確定した内容を待つという選択もあります。

ほかの渡し方と、冷静に比べる
この措置がなくなっても、次の世代へお金を渡す方法がなくなるわけではありません。国税庁のタックスアンサーで確かめられる範囲で、代表的なものを並べます。
| 方法 | 贈与税の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 1人1,000万円まで非課税(2027年3月31日まで・廃止が要望されている) | No.4511 |
| 暦年贈与 | 受け取る人1人につき年110万円の基礎控除 | No.4402 |
| 必要な都度の生活費・教育費 | 扶養義務者からの、通常必要と認められるものは贈与税がかからない | No.4405 |
3つ目の「必要な都度」の支払いは、結婚や子育ての費用にもかかわる項目です。一括の非課税措置は「まとめて先に渡せる」ことに意味がありましたが、必要なときに必要な分を払う形なら、もともと贈与税はかからないものがあります。どれが向くかは、渡す人の年齢、受け取る人の暮らし、相続全体の設計によって変わります。
そのうえで冷静に見ておきたいのは、どの方法でも「渡したお金がどう使われ、どう増えるか」は別の問題だという点です。受け取った資金を投資信託などで運用すれば、元本割れすることがあります。非課税で渡せることと、渡したお金が守られることは同じではありません。

よくある質問
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税は、もう廃止が決まったのですか?
決まっていません。金融庁が令和9年度税制改正の要望で、2027年3月31日の期限到来をもって廃止することを求めた段階です。採否は例年12月にまとまる与党の税制改正大綱と、その後の法改正で決まります。
いまの制度では、いくらまで非課税ですか?
受け取る人1人につき1,000万円までで、そのうち結婚関係の支払いは300万円が上限です。受け取る人は契約を結ぶ日に18歳以上50歳未満で、前年の合計所得金額が1,000万円を超えると使えません(国税庁タックスアンサーNo.4511)。
すでに拠出したお金はどうなりますか?
金融庁の要望書は、2027年3月31日までに拠出された金銭等には引き続き非課税措置を適用できるようにしたいとしています。確定した扱いは、大綱と法令で確かめる必要があります。
なぜ廃止が求められたのですか?
要望書によると、利用件数が2023年217件、2024年253件、2025年219件と低迷し、認知率も2026年調査で22.9%と目標の30.0%に届かなかったためです。政策効果は限定的と自己点検されています。